存在の羽音

気ままに。自分と向き合う場所。自分を見つける場所。チラシ裏の独白。

夏の思い出

 

 夢を見た。祭りの夢を。それは今と昔をツギハギにした物語だった。昔連れていた女の子と同じように、今連れている女の子が振る舞っていた。祭り、ただそれだけで季節の移り変わりを想い切なくなる。提灯の明るい朱色が瞳にあの頃の景色を焼き付ける。その切なさはいつ憶えたのだろう。誰かと一緒にいた時なのか、それとも幼少期のおぼろげな記憶が基底にあるのか。小さい頃、祭りに参加すると氷菓子をもらえた。それのために熱い空気の中、太鼓を叩いた憶えがある。喚いた憶えもある。如何して喚いていたのかは憶えていない。

 少し経つと、盆踊りなんかもあった。祭りにいくと友人や先生たちと会うことが出来た。今では先生も一個の大人でしかないとわかってはいる。だが、当時の先生とは他の大人とは違う特別な存在であった。先生という区分けの中にある存在であった。だからたまにお酒なんか飲むと不思議な気がしたものだ。盆踊りはそんな先生の姿を垣間見ることができた。祭りの記憶は特別な記憶。後に思い出すと、そこには懐かしさがある。懐かしさには切なさと哀しさとが宿っている。夜の暗闇に浮かぶ提灯の遠吠え。煌めく朱色が記憶を染める。朱く朱く、戻れない再現を深く刻む。

 それからまた、時が経った。背も伸びた。連れ添う人がいた。あの、艶やかな浴衣姿が記憶にこびりついて離れない。雑踏が幾度となく記憶を呼び覚ます。ざわめきが、耳を駆け巡る。煙の匂いが鼻につく。埃と砂を孕んだ空気が夏月の光に濡れている。そうしてたっぷりと光を含んで浴衣を纏う素肌がぬらりと灯る。ああ情景よ。私をあの頃に連れて行ってくれ!没頭させてくれ!溺れさせてくれ!